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【専門家監修】高齢犬と夜鳴き|ハイシニアケアの基礎知識

近年、獣医療の発展やフードの質の向上など、犬を取り巻くあらゆる環境が急速に発展しています。
そしてそれに伴い、犬の寿命も伸びています。

大切な家族と一緒にいられる日々が増えることは、とても嬉しいことですよね。
しかしその陰で、加齢によって引き起こされる認知機能障害や病気などによって、介護が必要な犬が増えていることを知っていますか?
特に高齢犬と暮らす飼い主さんにとって、ハイシニアケアの知識を蓄えておくことで困った時に素早く対処ができたり、トラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。

今回はペットケアホーム「リュッカ」代表 安部里梅さんに、高齢犬の夜鳴きについて教えていただきました。
高齢犬のケアを知って、愛犬との暮らしをより豊かにしましょう。

監修

安部 里梅 さん

認定動物看護師

PET CARE HOME Lyuca 代表

プロフィールを見る≫

高齢犬と夜鳴き

人と同じく、高齢期を迎えた犬にとっても「眠れない」という問題はしばしば起こります。

睡眠バランスが変化する原因のひとつに認知機能障害がありますが、夜鳴きを引き起こす原因はさまざまです。
他に認知機能障害の症状がみられるからといって「夜鳴きをしても仕方がない」とひとくくりにせず、愛犬が不快感や不便を訴えていないかをしっかりと見極めてあげましょう。

ワンちゃんが鳴くのには、おおまかに分けて「要求吠え」「認知症鳴き」と2つの傾向があります。
ペットケアホームでの経験を元に、2種類の鳴き方の傾向をご紹介します。

「要求吠え」と「認知症鳴き」の傾向

「要求吠え」の傾向

要求を叶えると鳴きやむ・鳴き方に強弱がつくパターンが多いです。

鳴きはじめて少しの時間様子をみていると「早くして!」と鳴き方が激しくなります。
対応しにいくと鳴きやみ、「やっときたか」という表情でこちらの様子を伺います。

要求が解消されると、次の要求がうまれるまでは鳴きやみます。

「認知症鳴き」の傾向

近づいても全く気づかない様子で一心不乱に鳴き、触ると驚いた様子をみせるパターンが多いです。

少し黙った後に同じように鳴きはじめます。

1日のうち長時間鳴く・深夜から明け方にかけて鳴く傾向が多いため、飼い主さんが疲弊してしまうケースがあります。

それぞれの対処法

愛犬の夜鳴きの原因が「要求吠え」か「認知症鳴き」なのかで、対処法は全く変わります。

前述した「要求吠え」と「認知症鳴き」のどちらなのか判断が難しい場合は、まず愛犬の要求の傾向を記録してみましょう。
漠然とお世話をするのではなく、これをしたら鳴きやんだ、昼間の運動・睡眠時間、気候などを一緒に書き留めておくことをおすすめします。

あらゆる面から愛犬の要求を探ることで「我が子の傾向」をより細かく把握できます。
特に、気圧や天気の状態はハイシニアの行動や体調・睡眠時間に影響することがあるので注目してみてください。

一定期間記録をしてみてパターンがみられたら、それは「要求吠え」の可能性が高いでしょう。
以下のようにパターンから予測を立てて、要求を叶えるために色々と試すことができます。

例1:「寝る前に排便させたら夜鳴きが少なかった」時

加齢とともに筋肉量が減って排便がうまくいかず不快感があり、なかなか眠れず夜鳴きをしていたのかも?

例2:「昼間に日光浴をした日は夜鳴きが少なかった」時

体内時計や自律神経が整って夜の睡眠時間が増えたため、眠れない不快感から起こる要求吠えが減ったのかも?

例3:「寒い日や雨の日は鳴く時間が長い」時

気圧の変化や低気温で関節痛や頭痛、持病の痛みを感じて熟睡できないのかも?

要求が不明確であったりパターンがみられない場合は「認知症鳴き」の可能性がありますので、まずは動物病院の受診をおすすめします。
認知機能障害の進行具合を診断してもらい、症状を軽減させるためのサプリメントを活用したり、危険がないようにおうちの環境を整えるなどの対処が必要です。

ひとつ覚えておいてほしいことは、「要求吠え」には加齢による変化が起きやすいということです。

「要求吠え」は「早く散歩に行きたい」「遊んでほしい」などの要求がベースにあるため、高齢期に関わらず若い頃(若齢期)からよくみられる鳴き方です。
若齢期のワンちゃんは比較的分かりやすい行動を取ることが多いため、飼い主さんの多くが愛犬の要求に気づいて早めに対処することができます。

甘えで鳴くこともしばしばありますが、「この子は小さいころから甘えないから」との思い込みをされている方もみえます。
甘えない子ではなく高齢になるとびっくりするほど甘える子になることもあります。
それがとても愛おしく感じることは言うまでもありません。

しかし高齢期になると「慢性的な身体の痛みや不快感を取り除いてほしい」など、若い頃とは違う、複雑で分かりにくい種類の要求がうまれるようになります。

要は同じ「要求吠え」であっても、加齢によって訴えてくる要求の種類が変わったり、バリエーションが増えることで、飼い主さんのとって「要求吠え」か「認知症鳴き」なのか徐々に判断が難しくなっていくということです。

この要求の変化に気づかないと、「夜鳴き=認知機能障害」という勘違いが生じてしまうのです。
実際、認知機能障害が理由で老犬ホームに入所したワンちゃんの夜鳴きの原因が「要求吠え」だったということが多くあります。

愛犬が夜鳴きをしていたら、それが「要求吠え」なのか「認知症鳴き」なのかを正しく見極めて、正しく対処してあげましょう。

忘れてほしくない、飼い主さんご自身のケア

愛犬が夜鳴きをするようになると、ワンちゃんだけでなく飼い主さんも睡眠不足になってしまうケースが多くあります。

長く続く睡眠不足は精神的な不安を引き起こし、不安や怒りにもつながりやすくなります。
また「近所からの目」やご自身の加齢や病気なども加わると、飼い主さんの負担は更に計り知れないものとなります。

責任感が強かったり繊細な飼い主さんほど、知らず知らずのうちにご自身を犠牲にしているケースが多くあります。
少しでも思い当たる方は、愛犬のためにもぜひご自身のケアを忘れないでください。

まずは老犬ホームなどの施設でショートステイ(一時預かり)や、動物病院でペットホテルを利用するなど、息抜きの時間をつくってみましょう。
現在は高齢犬の増加に伴って需要が増えてサービスもより整ってきているので、安心してプロにお任せしましょう。

ワンちゃんにとっても、お家以外での関わりが良い刺激になったり、同時に健康診断や行動チェックなどの医療やサービスを受けることで心身の健康に役立ったり、なにより大好きな飼い主さんの笑顔が増えることは嬉しいのではないでしょうか。

現在お悩みの方は、ぜひ一度お近くの施設や動物病院に相談してみてくださいね。

まとめ

十数年間連れ添った愛犬と飼い主さんとの間には、とても強い絆があることでしょう。
言葉でのコミュニケーションができなくても、その視線・表情・行動などのサインで愛犬の気持ちが手に取るように分かる方も多いのではないでしょうか。

しかし愛犬が高齢になって自分の身体をうまく動かすことができなくなったり、痛みや不快を感じるようになったり、はたまた認知機能障害を引き起こすことによって、ワンちゃんはこれまでとは全く違ったサインを出すことがあります。

そうすると途端に飼い主さんは戸惑ってしまうのですが、あらかじめ「要求吠え」「認知症鳴き」の傾向を知っておくことで慌てずに対処できるかもしれません。

この記事が飼い主さんとワンちゃんにとって、少しでも役立つことを心から願っています。
ぜひ下の関連記事も参考にしてみてくださいね。

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